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新しいフォーマットに関して

MIRU推進委員会では、「MIRUに制度疲労が目立つようになってきた。」との認識のもと、活発な議論を展開し交流をはかる場としての役割を維持しつつ、グローバル化、若手育成を強化することでMIRUの使命を明確化する方針が合意されました。これを受け、プログラム委員会では、MIRU本来の立ち位置を見直し、フォーマットの変更を行うこととしました。

シンポジウムの本来の役割は、研究者が一堂に会して、議論を戦わせる場を提供することです。情報処理学会や電子情報通信学会の研究会は、この議論の場を提供しております。しかし、各回の研究会ではどうしても聴衆の数が限られます。そこで、研究会の既発表、未発表は気にせず、その年度のオールジャパンの研究活動が広く俯瞰できるよう毎年開催のMIRUが立ち上げられました。当然、聴衆が全ての研究発表を俯瞰できるようシングルトラック制もできるだけ堅持してきました。

このシングルトラック制が、聴衆が増えるに従い問題を孕んできました。1つ目は、大多数の聴衆のための議論の希薄化、2つ目は、シングルトラックの華やかさとそれに伴うガラパゴス化、3つ目は、海外会議との競合です。以下では、これらの問題点と今回とった対策について述べます。

1) 議論の希薄化とその対策:インタラクティブタイムの充実

古代ギリシャ語に源を発するシンポジウムは、講演と討論という2部構成の討論会のことを意味します。ところが、MIRUにおいて聴衆が増えるに従い、この講演と討論を大会場で行うようになりました。前半の講演部分は多くの聴衆に聞いては貰えるものの、後半の討論部分においては深い議論をしづらく、発表者にとってはフィードバックの少ない一方通行的な発表の場となってきました。討論がある場合でも、度胸のある一部の方の片寄った視点からの討論になりがちです。そこで、口頭講演、招待講演、基調講演といった講演の種類を問わず、後半の討論をやりやすくするために、インタラクティブタイムにこれらの講演と対をなす討論を組み入れました。これにより、発表者を中心にポスターの前で少人数が輪を作り、じっくり討論が行えると期待します。もちろん以前からのスポットライト発表もインタラクティブタイムに参加して頂きます。いわば、インタラクティブタイムが全ての参加者が一堂に会するプログラムのメインイベントという位置づけです。じっくりと深い討論を期待します。また、その際、研究の芽をのばすようなポジティブな討論であることもお願い致します。

2)華やかさとガラパゴス化とその対策1: 招待講演制の導入

MIRUが盛んになればなるほどMIRU自体が目的化してきます。この間、MIRUが盛んになるのと反して、MIRUへの投稿に精力を使い果たし、国際会議がなおざりになり、国際コミュニティにおける日本のビジビリティーが低下するといった面もあるように感じます。そこで、世界の舞台での活躍をエンカレッジしつつ、これをMIRUに取り込む努力として、難関国際会議での発表を再度MIRUで再現してもらう招待講演を導入しました。国内向けのアピールの場としてのMIRUを気にせず、どんどん難関国際会議に投稿をお願いします。MIRUはそういった活動を招待講演という形で再現し、国内的なビジビリティーをサポートして行きたいと考えています。

3)華やかさとガラパゴス化とその対策2: 査読システムへの対策

MIRUの口頭発表は、聴きごたえがあります。いわば、MIRUの華です。ところが発表件数が限られているため、査読が厳しくなり、そこで発表することの高級感も出てきました。真に高級であるためには毎回査読基準が変わるようでは困ります。そこで、同一の査読基準が一定期間維持できるよう、MIRU Conference Editorial Boardというおよそ3年交代のセミパーマネントの査読専門部門をMIRU推進委員会直下に設置しました。これにより、一定期間、同一のメンバーが、同一の基準で論文の査読を請け負うこととなり、厳密な査読を担保することができます。

もう一つの問題として、MIRU査読付き論文は質の良い査読が行われた高級な論文としてMIRUコミュニティ内では評価されるにも関わらず、シンポジウム論文として他のコミュニティから比較的軽く扱われているという現状があります。これでは、著者の査読を通す努力や査読者の良質な査読を提供する努力が報われません。今回から、MIRUの査読をパスしたものは、情報処理学会論文誌CVAの速報論文として、そのまま論文誌に掲載することにしました。これにより、論文誌としてのお墨付きを与えることとなり、他のコミュニティに高級性を顕示することができ、著者と査読者の努力を無駄にしないことになります。

4)華やかさとガラパゴス化とその対策3:英語論文化

査読付き投稿論文は英語としました。これには2つの意味があります。まず、国内の大学や大学院において留学生が占める割合や企業研究者のうち外国人が占める割合は増えつつあります。彼らにもMIRUに参加してもらい、帰国後に彼らの国とMIRUコミュニティの橋渡しをしてもらうことで世界に広がるMIRUコミュニティが形成できます。このような展開を図るためには、英語化を避けて通れません。

2つ目は、和文論文の場合、海外の論文に引用される可能性はほとんどないといっても過言ではありません。従って、論文誌として出版するからには英語であることが必須と考えられます。さらに、速報論文という位置づけを考え、その後の本格的な論文の海外論文誌への投稿に際して、差分をつけやすいように査読付き論文への投稿は4ページとしました。MIRUの口頭発表記録であるCVA誌の速報論文を踏み台として、MIRUでの討論などを参考に内容を磨き、世界の論文誌への論文投稿をお願いします。

5)海外競合とその対策: 予稿集の扱い

一部国際会議では論文誌との境目が若干曖昧になってきていますが、プログラム委員会としては、「会議の予稿集は、議論のための資料であり、引用の対象として期待するべきではない。もし引用されたいのなら、予稿集ではなく論文誌へ投稿するべきである。」との考えです。さらに、国内会議の予稿集を公開したがために、国際会議にて二重投稿であるとか既発表論文であると判断され、不採録となることも散見されます。このため、MIRUでの発表のアブストラクトを集めたExtended Abstract集は討論のための資料であるとしてその位置づけを明確にし、その回のMIRUへの参加者に対してのみオープンにするものの、MIRU参加者以外からは参照できないように致しました。MIRUでの発表でお茶をにごさず、論文誌への投稿を勧めるとの趣旨でもあります。

以上要するに、シンポジウムの本来の姿にできるだけ戻ろうとしたのが今回のMIRUの改革です。新しい試みですので、問題もあるかとは思いますが、新生MIRUのポジティブな面を評価して、皆様の積極的な参加によりMIRUコミュニティの活動を盛り上げて頂ければと存じます。

プログラム委員長
池内克史
黄瀬浩一